【田中研之輔教授×アデコ】リアルイベント「人的資本ラウンドテーブルOPEN EDITION」報告レポート
2025/08/29

2025年6月13日、アデコ本社にて「人的資本経営ラウンドテーブル OPEN EDITION ~経営戦略から見た離職と定着~」が開催されました。これまでクローズド形式で行われてきた本イベントが、今回は初めて一般公募という形で開かれ、企業の人事・経営層が多数集まりました。
本記事では、アデココンサルティング部部長、古本武司による実務的な問題提起、参加者同士のワールドカフェで交わされたリアルな対話、そして法政大学・田中研之輔教授が提起した「これからの人事に求められるスタンス」まで、リアルイベントならではの熱量と手触りを交えつつ、当日語られた発言の数々をお届けします。
▲アデコの森口静香(右)は、チェンジマネジメントの専門家。快活な司会を通じて、熱気あふれる濃密な時間に寄与した。
1. 部長・古本が示した「人手不足の構造」と「報酬の再構成」
人手不足の課題には、「量・質・やる気」の掛け算で挑む
冒頭に登壇したコンサルティング部部長の古本は、人手不足を「業務量と人手のバランスが崩れている状態」と定義しました。ここで言う人手とは、単なる人数ではなく、「パフォーマンス」と「モチベーション」を掛け合わせた概念として捉える必要があると強調。すなわち、「人手=人数 × パフォーマンス × モチベーション」という視点です。
この構造で捉えると、単に採用数を増やすだけでは人財不足は解消されません。パフォーマンス(質)やモチベーション(やる気)が伴わなければ、人数が揃っていても組織は機能不全に陥る可能性があります。人数・スキル・モチベーション、そのどれかひとつでも欠けた瞬間に、人手不足は発生するのです。
古本は、だからこそ「採用・育成・動機づけ」を切り離さず、一体的に設計することが不可欠だと述べました。複雑化する人手不足の本質に対し、人事はより統合的なアプローチで応えていく必要がある。その課題認識を、力強く投げかけたのです。
鍵となるのは、「トータルリワード」の設計
「トータルリワード」とは、従業員に対する報酬を包括的に捉える考え方のことです。金銭報酬だけでなく、柔軟な働き方や心理的安全性、成長機会など、「非金銭報酬」も含めて設計する視点を指します。古本は、報酬制度を一覧にした表を社員に提示しても、それだけでは働く意味にはつながらないと指摘。重要なのは、この会社で働くことで、従業員がどんなメリットを享受できるか語れるようにすることであると強調しました。
そのためには、人事制度を整備するだけではなく、それを経営やマネジャーが自らの言葉で説明し、社員が自らの存在意義を重ねられるような環境づくりが必要だと語りました。
▲部長の古本武司は、人事制度領域において20年を超える実績を持つ。
2. 参加者全員で掘り下げた5つの論点
続いて行われたのが、参加者によるワールドカフェ形式の対話です。今回は以下の5つのテーマが設けられ、各グループがラウンドを重ねながら自由に意見を交わしました。
- 静かなる退職
- アルムナイの活用
- 管理職の罰ゲーム化
- 若手の離職と防止策
- 中途採用のオンボーディング
ホワイトボードを囲んだ議論では、「配属ガチャと言われることに対する人事としての率直な声」や、「退職した社員を一律で他人として扱ってしまう企業文化の限界」など、生々しいエピソードが飛び交いました。
中でも印象的だったのは、「そもそも個人の生産性をどう測るか」「中途入社社員に対する受け入れの手厚さが、現場ごとに全く異なる」といった課題に対し、他社の取り組みや失敗事例をもとに意見が重ねられていく様子です。普段は自社内で閉じがちな議論の数々。それらを他社の視点で照らし直すことの意義を、リアルな対話を通じて体感し合える場となりました。
▲各領域に精通したアデコのコンサルタントたちがファシリテーションを担当。問いかけにより議論の活性化を促した。
3. 田中研之輔教授の緊急提言、「人事施策をOPENにせよ!」
イベントの終盤。田中研之輔教授は、会場の空気を受け止めながらも、熱をもって語り始めました。
「今、人事施策はマーケティングの視点で進められる企業こそが伸びています。社内の一部だけでこっそり進めるステルス型のやり方では、本来の効果を発揮しません。人事は、経営者・CHRO・現場担当者など、ありとあらゆる関係者を巻き込み、施策を可視化させながら積極的に発信を行っていくスタンスが重要です。」
近年では人的資本に関する施策を、社内報だけでなく、YouTubeなどのSNS配信や出版などを通じて社外にも開示し、社内外を巻き込み推進する好事例も増えています。施策をオープンにすることで、社内の関係性だけでなく、社会との接点も広がっていく。そのような実践の蓄積が、これからの企業価値に直結していくという強いメッセージを参加者に訴えかけておられました。
▲法政大学 田中研之輔教授。アデコとはラウンドテーブルの他、YouTube対談番組など複数の企画を推進している。
【まとめ】当日語られた、3つの最重要ポイント
- 人手不足解消のキーワードは、トータルリワード。「人数」のみでなく、「パフォーマンス」と「モチベーション」の視点も重要である。
- 自社と似た課題を持つ他社は必ず存在する。人事同士で積極的な連携を行うことで、自社のアクションを加速させていくスタンスが求められている。
- 社内外への発信を恐れない。施策の進捗や背景を多様な方法で開示。周囲を巻き込むことで、施策にドライブがかかる。
▲参加者からは「専門的知見を交換できる貴重な場」「今日をきっかけに自社の施策も推進させたい」といったありがたい声が多数届けられた。
「オープン」を目指すことで、人事は社会との対話者となる
(プロデューサー:吉水の視点より)
今回の「人的資本ラウンドテーブルOPEN EDITION」は、これまでクローズドで行ってきた人的資本ラウンドテーブルを、初めて広く一般に開いた試みでした。閉じた議論を開き、限定された関係性を拡張することで、人的資本経営を「自社の課題」から「社会の課題」へと接続する。まさに、「オープン型」人事の実践そのものだったと感じています。
印象的だったのは、田中研之輔先生が語られた「人事施策をOPENにせよ」という提言です。制度や取り組みを、社内だけでなく社外にも開示し、共感と納得を得ながら進めていく。その営みは、関係者を巻き込む力を持ち、人事を「組織内の管理者」から、「社会と組織をつなぐ対話者」へと押し上げていくのだと思います。
私たちが目指す人的資本ラウンドテーブルは、そうした「開かれた人事」が交差し、語られ、持ち帰られる場です。制度の巧拙や形式にとらわれることなく、その背景や文脈、そして現場の声までも含めて共有知として世に開いていく。今回のOPEN EDITIONは、その第一歩を確かに踏み出せたと確信することができました。
改めまして、示唆に富むご講演をくださった田中研之輔先生、そして対話にご参加いただき、ご自身の経験や課題を惜しみなく共有してくださった皆さまに、心より感謝申し上げます。
Profile

アデコ株式会社 コンサルティング事業本部 人的資本経営グループ長
大手印刷会社経て、メガバンクへ入行。社内MBOにて設立したIR専門の会社にて、統合報告や適正株価試算やIPO支援を行う。
その後、人材ベンチャーの第二創業期に参画し、執行役員CROとして副業・兼業やプロボノ活動、越境活動等の既存の働き方に捉われないキャリア活動や、新しい人材の活用の手法を大手企業・ベンチャー・地方企業等に幅広く提案を行う。
田中研之輔氏 プロフィール
博士号 専門:キャリア開発 組織アナリスト
株式会社 キャリアナレッジ 代表取締役社長
一般社団法人 プロティアン・キャリア協会 代表理事
法政大学キャリアデザイン学部 教授
UC.Berkeley 元客員研究員/Melbourne University 元客員研究員
日本学術振興会 元特別研究員(PD:一橋大学/SPD:東京大学)
著書36冊・社外顧問 36社歴任
<著作リスト・一部>
『プロティアンシフト』(2023.5)
『社員がやる気をなくす瞬間』(2022.12)
『人的資本の活かしかた』(2022.8)
『キャリアワークアウト』(2022.7)
『今すぐ転職を考えてない人のためのキャリア戦略』(2022.4)
『新しいキャリアの見つけ方』(2022.1)
『プロティアン教育ー三田国際学園のキャリアエスノグラフィ』(2021.11)
『ビジトレー今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』(2020.6)
『プロティアンー70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』(2019.8)
『教授だから知っている大学入試のトリセツ』(2019.3)
『辞める研修 辞めない研修ー新人育成の組織エスノグラフィー』(2019.3)
『先生は教えてくれない就活のトリセツ』(2018.7)
『ルポ 不法移民ーアメリカ国境を越えた男たち』(2017.7)
『実践するキャリアオーナーシップ』(2024.3)
『進化するキャリアオーナーシップ』(2024.3)
『キャリア・スタディーズ -これからの働き方と生き方の教科書』(2024.9)
『これからのキャリア開拓』(2025.6)
『グロースマネジャー』(2025.6)
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