人事ノウハウ

テレワークの労務管理上のポイントと具体的な事例

2020/10/07

テレワークの労務管理上のポイントと具体的な事例

テレワーク時も労働関係法令の遵守が必要です。ここでは、テレワーク時の労務管理上のポイントを事例をまじえてをご紹介します。

テレワークとは?

tele=遠方の work=はたらく 会社の事業場外ではたらくこと

情報通信技術(ICT)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を指します。

【テレワークの形態】

  • 在宅勤務
  • モバイルワーク
  • サテライトオフィス勤務

テレワーク時にも労働関係法令の遵守は必要

労働関係法令
テレワークにおいて留意が必要な遵守事項
労働基準法
労働時間制 通常の労働時間制、フレックス、裁量労働、事業場外みなし、変形労働時間制
労働時間管理 残業時間管理、労働時間申告、健康管理基準の遵守
休憩・休日・休暇 一斉休憩付与、年次有給休暇付与、振替休日・代休
労働条件明示 労働条件通知書への就業場所の明示
就業規則 絶対的必要記載事項、相対的必要事項の記載、不利益変更、労基署への提出、周知
労働安全衛生法
ヘルスケア 健康診断、安全衛生教育、「心の健康作り計画と」衛生委員会での審議
作業環境・VDT 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン
労働者災害補償保険法
業務災害 業務起因性と業務関連性の認定基準
通勤災害 通勤とみなされる範囲
最低賃金法 最低賃金の適用 最低賃金の遵守

労働時間の把握

01.テレワークと労働時間制度

どんな労働時間制であってもテレワークは可能です。

  • 通常の労働時間制
  • フレックスタイム制
  • みなし労働時間制
  • 変形労働時間制

02.事業場外みなし労働時間制の適用

要件:使用者の具体的な指揮命令が及ばず、労働時間を算定することが困難なときのみ適用することが可能

テレワークはICTツールを活用した働き方であるため、事業場外みなし労働時間制の適用場面は限られます。

  1. 情報通信機器が使用者の指示により、常時通信可能な状態におくとされていないこと
    使用者の指示に即応する義務がない状態労働者が自由に情報通信から離れることや切断することが認められている場合や労働者の即応の義務が課されていないことが明らかな場合
  2. 随時、使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

※事業場外みなし労働時間制が適用されても、使用者に健康管理時間把握の義務は残る

03.適切な労働時間の把握

  1. 使用者は、労働時間を適正に管理するため、従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録しなければなりません。
    (労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン 平成29.1.20策定)
  2. 時間外労働の対象外である管理監督者や裁量労働で働く従業員がテレワークを行う場合でも、健康管理時間の把握が必要です。
    (労働安全衛生法第66条の8の3)

具体的な管理方法

  • 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること
  • タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
  • 自己申告制をとる場合には、従業員に事前に説明を行うとともに、使用者は定期的に実態を調査することが必要

※特に残業に関する申請・承認・報告体制の整備を行い、労働時間とそうでない時間の区別を明確にすることが必要です。(深夜残業の禁止、メール送信の禁止など)

作業環境管理

「在宅勤務」については、働く場所が従業員の自宅ではありますが、雇用者は、安全配慮義務の観点や労災事故の防止のためにも、積極的に管理に取り組むことが必要です。

Point:就業環境に関するセルフチェックシートを作成し、労使で共有するルールを定めることも有効!

※拡大する

情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン(令和元年基発0712第3号)」に留意しつつ、労働者が支障なく作業を行うことができるよう、在宅勤務に適した作業環境管理のための助言等を行うことが望まれます。

※出典:厚生労働省「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」

テレワーク中の事故

1.業務災害

テレワーク中の事故についても労災は適用されますが、業務災害と認められるためには、「業務起因性」「業務関連性」の2つが必要です。
労働者が、私用(私的行為)または業務を逸脱する恣意的行為を行ったこと等による傷病等は、業務災害とは認められません。

労災申請の手続きの際に重要なのは「事実の認定」です。したがって、テレワークの際には仕事の時間と私的な時間を明確に区別し、作業場所を特定することが望ましく、また業務の進捗状況を上司に報告するなどの対策も必要です。

<業務災害が認められたケース>

自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した事案。
これは、業務行為に付随する行為に起因して災害が発生しており、私的行為によるものとも認められないため、業務災害と認められる。

※副業中のけが等の場合にも労災が適用されるようになりました

2.通勤災害

通勤災害とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所の往復や就業場所と次の就業場所の移動等を、合理的な経路及び方法で行うこと等によって被った傷病等をいい(業務の性質を有する場合を除く)、モバイルワークやサテライトオフィス勤務の場合には、通勤災害が認められる場合もあります。

<通勤災害が認められる場合>

  • 従業員が勤務を行う目的で「家→サテライトオフィス→モバイルワーク→家」と寄り道なく移動している途中、事故に遭った場合には通勤災害が認められる可能性があります。(中断・逸脱中またはその後を除く)
  • 移動中に業務を行う場合、モバイルワークとして通勤災害ではなく業務災害となる場合もある
  • 午前中在宅勤務の後、出勤する場合で移動途中の自由が確保されている場合には、移動時間は休憩時間となり、労災の適用外ですが、上司の指示等により出社する場合には労働時間として業務災害の対象

手当や費用の負担

1.機器の購入・IT費用・光熱費

テレワークに関する費用については、必ずしも会社がすべてを出す必要はありません。労使でよく協議して費用の負担を決めることが必要です。労働者に費用負担させる項目がある場合には就業規則への定めが必要です。(労働基準法第89条5号)

<機器、作業用品の購入>
会社が指定したPCその他の作業用品を従業員の負担で購入させる場合など、従業員に費用を負担させる場合には就業規則に定めることが必要です。 (労働基準法第89条5号)

<IT通信費用、光熱費>
自宅での通信費用や光熱費などランニングコストは、業務だけでなく私用にも利用するものであり、実費精算が難しい場合には、定額で手当として支給する方法もありますが、その場合には就業規則に定める必要があります。なお、新しく手当を創設した場合には、原則として割増賃金の算定基礎に入れる必要があります。また手当は原則として課税扱いとなります。

2.通勤手当、交通費

テレワークの実施により、通勤自体がなくなる場合も多いことから、労使で十分協議した上、運用の見直しを検討することが必要です。

<具体的な対応例>

  • 賃金規程により通勤手当や交通費が「実費で支払う」「通勤に要する費用」等と規定されていれば、運用で不支給とすることも可能。実費精算の場合には、在宅勤務か否かがわかるよう勤怠管理することも必要。
  • 例えば6か月定期代相当額を前もって支払っていて、今後も在宅勤務継続の場合には、各自で解約後払い戻しさせることも可能。
  • 通勤手当として定額支給を行っている場合などで手当を減額・廃止したい場合には、就業規則の変更が必要。

就業規則・契約の修正

1.テレワーク規程の作成

単に働く場所が変わるだけであれば就業規則の変更は不要です。

Point:既存の就業規則とは別にテレワーク規程を作成する方法もお勧め!

項目 就業規則の変更が必要な場合
労働時間
  • 新しい勤務体系(フレックスタイム制・みなし労働時間制)を適用する場合
  • 休憩時間を一斉に与えない場合
給与・手当
  • 人事評価制度の新設・改定を行う場合
  • 通勤手当の支給基準を変更する場合や在宅勤務手当等を新設する場合
服務規律・懲戒
  • 資料の持ち帰りルールや漏洩防止のための情報管理方法を追加・変更する場合
費用負担
  • パソコンやその周辺機器について従業員所有のものを使用したり、通信費や光熱費等を従業員に負担させる場合

2.労働条件の明示

労働基準法15条により雇用する際は、賃金や労働、時間、就業場所に関する事項を明示する必要があります。

Point:労働者に対し就労の開始時にテレワークを行わせることとする場合には、就業の場所としてテレワークを行う場所を明示しなければならない。

※既存の労働者については努力義務(労働契約法第4条第2項)
※自宅以外の就業場所を「使用者の許可する場所」と定めることも可

参考:厚生労働省:テレワークモデル就業規則

厚生労働省が出している「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」には、勤務規定のサンプルが公開されています。

服務規律

紙資料の持ち出しを原則禁止する運用も可能
<テレワークモデル就業規則 抜粋>
テレワーク勤務時の際に所定の手続きに従って持ち出した会社の情報及び作成した成果物を第三者が閲覧、コピー等しないよう最大の注意を払うこと。
カフェなどでの情報漏洩、機器の紛失リスクは高いため詳細ルールを規定しましょう
<テレワークモデル就業規則 抜粋>
モバイル勤務者は、会社が指定する場所以外で、パソコンを作動させたり、重要資料を見たりしてはならないこと
モバイル勤務者は、公衆無線LANスポット等漏洩リスクの高いネットワークへの接続は禁止すること

利用申請

原則テレワークとする場合には、申請を省略することも可能(一部申請書提出の運用例)
<テレワークモデル就業規則 抜粋>
サテライトオフィス勤務の利用にあたっては、所定の申請書により申請しなければならない。

時間外・休日労働

在宅勤務時の時間外・休日労働を原則禁止する例。
ただし、実際に時間外労働を行った場合にはその分の残業代支払いは必要
<テレワークモデル就業規則 抜粋>
原則として時間外労働、休日労働及び深夜労働をさせることはない。

費用負担

光熱費等は労働者の負担としている例
<テレワークモデル就業規則 抜粋>
在宅勤務に伴って発生する水道光熱費は在宅勤務者の負担とする。

通勤費

週4日以上のテレワーク実施者には交通費を実費精算とする例
<テレワークモデル就業規則 抜粋>
在宅勤務(在宅勤務を終日行った場合に限る。)が週に4日以上の場合の通勤手当については、毎月定額の通勤手当は支給せず実際に通勤に要する往復運賃の実費を給与

在宅勤務手当

毎月定額の在宅勤務手当を支給する例
<テレワークモデル就業規則 抜粋>
業務負担分として毎月月額○○○○○円を支給する

出典:厚生労働省「テレワークモデル就業規則」

最低賃金の適用(都道府県別)

テレワークを行う労働者には、所属している事業場のある都道府県の最低賃金が適用されます。

まとめ

新しい社内ルールの一例をご紹介します。

  1. 労働時間の把握
    フレックスタイム制の導入・勤怠管理ツール・PCログ・チャットなどの導入
  2. 作業環境管理
    セルフチェック・ハンドブックの配布・定期的な面談による確認
  3. テレワーク中の事故
    就業場所の特定・移動の際の連絡
  4. 手当や費用の負担
    通勤費の実費精算・在宅勤務手当支給
  5. 就業規則・契約の修正
    テレワーク規程の作成・就業場所の明示
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