人事ノウハウ

【簡単解説】ディスラプション(Disruption)とは?意味や原因、対処法を徹底解説!

2025/12/26

デジタル技術の進化やグローバル競争の激化に加えて、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代といわれる現在。企業を取り巻く環境は、既存の産業構造やビジネスモデルを根底から破壊する「ディスラプション」の脅威にさらされています。 これからの競争優位性を担う人材を、育成・獲得すべき人事・採用担当者は、この変革期をいかに組織力の強化と成長機会につなげるかが重要といえるでしょう。そこでこのページでは、ディスラプションの脅威に直面した企業が陥りやすいジレンマを乗り越え、継続的な成長を実現するための、具体的な組織変革戦略について解説します。

Adeccoでは「AIによるディスラプション時代に経営者が人材戦略において”今”すべきこと」をテーマに有識者を招いたパネルディスカッションを行いました。こちらもぜひご覧ください。

ディスラプションとは破壊的変革のこと

ディスラプション(Disruption)とは、元々「中断」「混乱」を意味する言葉です。しかし、ビジネスにおいては、技術革新や新たなビジネスモデルによって既存の市場や産業構造、あるいは企業の常識そのものが根本から破壊され、大きく変化する「破壊的変革・破壊的創造」を指します。

デジタル・ディスラプションについて

デジタルと組み合わせて、デジタル・ディスラプションと呼ばれることもあります。令和3年情報通信白書ではデジタル・ディスラプションについて以下のように言及されています。

デジタル・トランスフォーメーションは、自社にとどまらず、業界や社会全体を巻き込んだ破壊的変化を伴うことがある。このため、デジタル企業が市場に参入した結果、既存企業が市場からの退出を余儀なくされる事例が出ている。これをデジタル・ディスラプション(デジタルによる破壊)という。

引用:総務省「令和3年版 情報通信白書|デジタル・ディスラプション」

ディスラプションがビジネス用語として定着したきっかけ

1997年、アメリカの経営学者クレイトン・クリステンセンによる書籍「イノベーションのジレンマ(The Innovator's Dilemma)」で、既存の産業構造やビジネスモデルを大きく入れ替え、新たな市場の創造や優位性の逆転をもたらす現象を、破壊(ディスラプション)する変革と表現しました。

この考え方は、技術革新やビジネスの急速な変化が日常化した現代において、企業が成長を続けるために新たな挑戦をいかに受け入れるべきかを示す重要な指針となっており、現代のビジネスシーンを語る上で不可欠なものとして幅広く用いられています。

ディスラプションに関連する用語

ディスラプションに関連して以下の用語がよく使用されます。ディスラプションを理解する上でぜひ参考にしてみてください。

概要
イノベーションのジレンマ 企業が既存顧客の要望に応え、現在の事業を最適化するほど、将来の革新的技術への対応が遅れてしまう現象です。短期的利益を優先することで新市場への挑戦が後回しになり、破壊的イノベーションに市場を奪われるリスクを指します。
破壊的イノベーション 性能や規模では既存製品に劣る場合でも、低価格・利便性・新しい価値でニッチ市場から浸透し、最終的に既存市場を置き換えてしまう革新的変化のことを指します。既存企業が対応しづらいのが特徴です。
持続的イノベーション 既存製品やサービスを改良し、性能や品質を段階的に高めていくイノベーションを指します。企業が既存顧客の満足度向上や市場シェア維持のために行うもので、破壊的イノベーションとは異なり既存価値の強化が目的です。

生成AIの進化で企業はディスラプションをどのように考えている?

AI、IoT、クラウドといったデジタル技術の進展により、かつて高かった参入障壁が低下し、これまで業界外とされていた企業であっても新規参入が容易になりました。その結果、データを活用した革新的なビジネスモデルが次々と生まれ、競争環境は大きく変化しています。

近年では特に生成AIの登場によってディスラプションの脅威が一層高まり、「AIは自社が属する業界のゲームチェンジャーになる」と考える人は、業種を問わず半数を超えているという調査結果も出ています。既存企業にとっては、変化に対するスピード感と新たな価値創出の姿勢がこれまで以上に求められていると言えるでしょう。

■AIは自社の属する業界のゲームチェンジャーであると回答した人の割合

業界
割合
テクノロジー 82%
航空宇宙と防衛 63%
世界平均 61%
公共事業、クリーンテクノロジー、エネルギー 60%
サプライチェーン、電子商取引、RCG、日用消費財 60%
製薬、ライフサイエンス、ヘルスケア 52%
製造、物流、モビリティ、自動車、輸送 51%

出典:Adecco Group「Leading Through the Great Disruption」

Adeccoでは「AIによるディスラプション時代に経営者が人材戦略において”今”すべきこと」をテーマに有識者を招いたパネルディスカッションを行いました。こちらもぜひご覧ください。

企業がディスラプションを乗り越えられない理由

ディスラプションをもたらす技術革新の兆しに気づいていたとしても、実際に変化へ対応しきれない企業は少なくありません。

新たな技術や市場への参入が遅れ、結果として競争力を失う現象は「イノベーションのジレンマ」と呼ばれています。これは、企業が既存顧客の声に応え、既存製品やサービスの改善に注力し続けることで、破壊的なイノベーションへの投資が後回しになり、変化への適応が遅れてしまうという考え方です。

特に大企業の場合、規模が大きく組織が成熟するほど革新的な挑戦が難しくなり、たとえ最新の技術を保有していても、それを新たな価値や成果に結びつけられないケースも多く見られます。

なぜイノベーションのジレンマに陥るのか?

イノベーションのジレンマが起きる要因について、主に以下の5つが挙げられます。それぞれ解説します。

<イノベーションのジレンマが起きる要因>

  1. 企業は顧客と投資家が満足するように資源を分配する
  2. 小規模な市場では大企業のニーズを満たせない
  3. 存在しない市場は分析できない
  4. 大企業の強みが弱みになる
  5. 技術の供給と市場(顧客)の需要は必ずしも一致しない

1.企業は顧客と投資家が満足するように資源を分配する

破壊的イノベーションは、登場初期にはニッチな顧客層から支持される場合が多く、すぐに大きな収益に結びつくとは限りません。一方、既に確固たる地位を築いている企業は既存の顧客や投資家の期待に応えることが求められ、短期的に利益をもたらす分野へ資源を集中しがちです。

その結果、将来の成長につながる可能性を持つ破壊的イノベーションへの投資や取り組みは後回しにされ、軽視されてしまいます。

2.小規模な市場では大企業のニーズを満たせない

ニッチな顧客層を対象とした新興市場は、一般的に規模が小さく、収益性も限定的です。すでに既存市場で強い地位を築いた大企業にとっては、既存ビジネスと比較して利益が見込めず、参入するメリットが薄く映ることも少なくありません。

その結果、将来性のある市場であっても、初期段階では十分に注目されず、真剣に検討されないという状況が起こり得ます。

3.前例がなく、まだ存在しない市場は分析できない

既に地位を確立した企業は、既存市場のデータをもとに合理的な判断を下す能力に優れています。しかし一方で前例のない新規市場の場合、十分なデータが存在せず、そもそも精度の高い分析ができません。

将来性や収益化の見込みを立てることが難しいため、結果として企業は慎重になり、新規参入への意思決定が遅れる傾向があります。

4.既存企業の強みが弱みになる

既に地位を築いた企業は既存ビジネスの枠組みに最適化された組織構造や業務プロセス、価値判断の基準を持っています。これらは効率性や収益性を高めるうえで大きな強みとなりますが、一方でその最適化こそが新しい市場では柔軟な発想やスピーディーな対応を阻む要因となる場合があります。

従来の市場で成果を上げてきたプロセスや判断基準に固執することで、結果として新規市場への参入や革新的な挑戦で失敗してしまうことも珍しくありません。

5.技術の供給と顧客の需要は必ずしも一致しない

技術が進歩し、より高機能な製品やサービスを提供できるようになったとしても、必ずしも顧客がそれを望むとは限りません。技術革新のスピードが市場の需要を上回ると、追加された機能が過剰品質と判断され、価値として認識されないこともあります。

それにもかかわらず企業はこれまでの市場に合わせた改善を続け、リソースを既存事業に投じがちです。その結果十分な成果を得られないまま新たな市場への対応が遅れ、機会を逃してしまうのです。

イノベーションのジレンマを回避しディスラプションを乗り越えるために必要なこととは

では、イノベーションのジレンマを回避し、ディスラプションを乗り越えるためにはどういった対応が必要なのでしょうか。それぞれ詳しく見ていきましょう。

<ディスラプションを乗り越えるための対応策>

  1. 独立組織による対応
  2. 既存の価値判断に引っ張られないようにする
  3. 小さく試行錯誤を進める
  4. 市場動向を観察する

1.独立組織による対応

破壊的イノベーションに対する取り組みは、多くの場合、既存市場を担当する部門やチームが担うことになります。しかしその場合、日々の業務や既存顧客への対応にリソースが集中し、新たな市場に向けた挑戦がおろそかになりがちです。

この課題を回避するためには、従来のビジネスとは切り離された別組織を設け、新市場に専念できる体制を構築することが有効です。独立した組織が自由度高く動ける環境を整えることで、破壊的技術への対応スピードを確保しやすくなります。

2.既存の価値判断に引っ張られないようにする

既存市場を中心に活動する組織では、従来の成功基準に基づいて意思決定が行われるため、新規市場へのアプローチが後回しになるケースが多く見られます。

これを防ぐには、新たな市場に適した価値基準を設定し、その視点で判断を下せる体制が求められます。既存の評価軸から独立した仕組みを持ち、柔軟な発想で対応策を検討することで、新市場への挑戦を前向きに進められる可能性が高まります。

3.小さく試行錯誤を進める

新しい市場では、データが少なく将来の見通しを立てにくいことが多いため、最初から完璧な戦略を描くことは困難です。そのため仮説検証を繰り返しながら進める姿勢が重要となります。

早いサイクルで小さく挑戦し、結果をもとに改善を重ねていくための仕組みづくりや文化が、成功の鍵を握ります。大規模投資に踏み切る前に、小さな試行を積み重ねることでリスクを抑えつつ、価値のある新市場の発掘につなげることができます。

4.広い視野で市場動向を観察する

既存の価値観に基づいて市場を捉えてしまうと、新たに生まれつつあるニーズや将来有望な市場の兆しに気づきにくくなります。

現在のビジネス領域にとらわれず、潜在的な市場や新しい価値を生む分野を探索する視点を持つことが重要です。特に現時点では小規模であっても、急成長の可能性を秘めた新技術やサービスには積極的に目を向け、機会を逃さない姿勢が求められます。

ディスラプションを成長機会と捉えるには、企業の対策が急務

AI・IoT・クラウドをはじめとする革新的な技術は参入障壁を低下させ、異業種からの競争の激化とビジネスモデルの転換を促しています。しかし多くの企業はこうした変革の必要性を認識しながらも、既存の枠組・価値判断に縛られ、ディスラプションへの対応が遅れがちです。これはまさに「イノベーションのジレンマ」が示す典型例と言えるでしょう。

ディスラプションを乗り越えるためには、従来の事業とは独立した組織による挑戦や、新たな価値基準に基づく意思決定、小さな試行錯誤の積み重ねが必要です。また、既存市場だけでなく、まだ小規模な新興市場や技術にも目を向け、広い視野で兆しを捉えていくことが競争力につながります。

破壊的イノベーションは突然大きな市場になるのではなく、最初はニッチな領域から静かに始まります。その芽を見逃さず、スピーディーに検証し、未来への投資を続けていくことが今後ますます重要になるでしょう。

Adeccoでは「AIによるディスラプション時代に経営者が人材戦略において”今”すべきこと」をテーマに有識者を招いたパネルディスカッションを行いました。

ディスラプションに対応するための組織論や、ハイブリッドな人材戦略の構築に関する実践的な講演会の様子を、動画にて提供しています。自社の組織変革を加速させるためのヒントとして、ぜひご活用ください。

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